文庫のいいところご紹介します
「本当の日本食はこんなものと比べ物にならないくらいおいしいのだよ」と言ってやりたい衝動に駆られる。
サンドイッチや弁当のことばかり書いたが、たまにレストランに行くこともある。
ただ、それは時間に余裕があって、同僚とゆっくりおしゃべりしながら食事を楽しもうか、という時や、客を接待するような場合に限られる。
一人で行くことはめったにない。
日本の食堂と違って、そばやカレーを注文してそそくさと食べ終え、会計を済ませ、二、三十分で職場に戻るなどということはロンドンでは難しい。
何事も、そんなに素早く運ばないからである。
座ってから、ウェイトレスに注文を取ってもらうまで時間がかかるし、昼飯であっても一応、スープか前菜で始まり、それからメイン料理、さらにデザートにコーヒーという順番で食べるのが普通のやり方だ。
どうしても一時間以上はかかる。
そこにいくと、日本の食堂は、一品を注文するのが普通で、料理が出来あがるのも早いから、あっという間に食事が終わる。
客は急いでいるし、あとの客は待っているし、でゆっくりする暇がない。
シティは忙しい場所だが、社員の誰かの誕生日であるとか、退職であるとか、あるいは新しい社員が入って来たとか、何か特別のことがあった時は、昼飯の時間に同僚たちが大勢集まってパブかレストランで酒を飲み、お祝いをする。
飲むのはビールとワインだ。
こうした機会は、あまり時間を気にせず、わいわいとりとめのない話をしながら大いに飲む。
何しろイギリス人は、酒に強い。
食べ物を口にせず、二パイントも三パイント(一パイントは約○・五七リットル)もビールを飲む。
日本人が同じ調子で付き合うと、参ってしまう。
だいたい、そのような飲み会(?)は、昼の十二時くらいから始まって、二時くらいまで続くが、さらに三時まで腰を据えて飲み続ける人もいる。
午後の市場で取引をしなければならない人だけが、早めに引き揚げる。
面白いのは、新入社員の歓迎会は別として、誰かの誕生日ならば誕生日を迎えたその人が、退職の記念の飲み会ならば退職するその人が、飲食の費用を払う習慣になっていることだ。
私もイギリスに来てしばらくは、自分の誕生日に同僚を近くのパブに招待したものだが、数年前からやめている。
何も、お金が惜しいからではない。
「ミスターW、誕生日おめでとう」と皆が祝ってくれるのはいいが、「ところで今年でいくつになったのか?」と、こちらの年齢を無遠慮にたずねる輩が必ずいるからである。
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